野坂昭如 - 不浄理の唄

 
9.5/10点中

日本に野坂昭如あり、ということを再確認した。

前回、ここでレビューした「分裂歌草紙」 はスタジオ音源のアルバムであったが、
今回の「不浄理の唄」はライブ音源である。
そして、ライブ音源でしか味わえない魅力がこの野坂昭如のアルバムにはある。
それは「鬱と躁」など他のアルバムでもフィーチャーされ、
野坂にとって非常に重要な要素の一つである、「語り」である。
このライブが行われた1973年当時野坂は
四畳半襖の下張事件」という刑事事件に巻き込まれており、
それに関する「語り」が展開される訳だが、
それがまた他の語りに負けず劣らずキワドイ話題連発で面白い。
(ファンからは「ワイセツリサイタル」と呼ばれているそうだ)

そして、その「語り」が曲に対してアイスブレイクとしてきちんと機能しているのが
野坂の「語り」の素晴らしいところだ。
前座として出演した(豪華!)、美輪明宏氏の「星の流れに」、「ミロール」での絶唱。
「ぼんぼの唄」、「黒の舟歌」 でのこちらの腹の底を揺さぶる野坂のこぶし回し。
野坂の「語り」はこれらの名曲の調子を見事に整えている。
(特に美輪の歌が素晴らしすぎて、野坂の歌に戻るには「語り」は必須だ)

アルバムとしての完成度は「分裂歌草紙」 の方に分があるが、
「語り」を含めたエンターテイメント性で言えば、こちらの「不浄理の唄」も負けていない。
特に前半(1~6)に関しては「分裂歌草紙」を超えている。

酒を呷りながら聴きたい、素晴らしい情感に溢れた傑作だった。