Washed Out - Paracosm



9.3/10点中

ウォッシュト・アウトことアーネスト・グリーンの逃避主義は
これまでも様々な議論を巻き起こしてきた。
そして、満を持して発表した今作もまた逃避主義に則った作品であり、
再び議論を呼ぶに違いない。

が、「過去の経験の理想化されたヴァージョンを思い描いたり、理想的な場所を想像すること」
と自身の逃避主義を形容するアーネスト・グリーンのそれは極めてポジティヴだ。

そして、その逃避主義同様、サウンドもまたポジティヴだ。
#1「エントランス」~#2「イット・オール・フィールズ・ライト」のシームレスな繋がりと
そのあまりに眩いサウンドスケープは文字通り、白日夢を意味する「パラコズム」の世界だ。
「ドント・ギヴ・アップ」、「ウェイトレス」と作品が進んで行っても、その明度が落ちることは無い。
生楽器を多用しているにも関わらず、広漠たる浮遊感に満ちたサウンドは保持されており、
前作同様、エスケーピズムに満ちた彼の歌詞の逃避を助長する。

「別にミジメな存在から逃げ出したいってわけじゃない」とアーネスト・グリーンは言う。
では、この彼の逃避主義とは一体何なのか。

それは現実に対する想像力だ。
理想的な場所の想像、そういったものへの憧憬はグリーンの言うように実に芸術的な行為である。
そして、その点でこの作品が「白日夢」をテーマにしているということがより機能してくる。

野田努氏も言うように、この作品を聴き終えたら、聴き手である我々は目を覚まさなければいけないだろう。
しかし、美しい白日夢の世界が展開されているときぐらい、そこに身を浸すのは悪くない。