Sean McCann - Music for Private Ensemble



9.8/10点中

Sean McCannという作家は一貫した作家だ。
根底にある彼の方向性というのはまるで変わっていない。
彼は音楽というものの価値を改めて見つめ直そうとし、
その限界を見定めようとしている。

美しいヴァイオリン、粗野なパーカッション、電子音、そして環境音。
これらを聴いて我々は何を感じるだろうか。
彼はこれらの音を並列に扱い、聴き手と共に音楽について考えてきた。
2011年の作品、『The Capital』を聴けば分かりやすいだろう。
未分化な音が同時並行的に鳴ることで聴き手と共に音楽を作り上げる余地を残し、
一義的でない互助的、相互関係的な音楽を実現させることに成功した好例で、
実験的な作風ながらも、広い層に受け入れられる音楽性を有する良作である。

その『The Capital』からソロでは約2年ぶりとなる、
この『Music for Private Ensemble』もまた相互関係的な音楽だと言える。
しかし、伝統的な作曲技法によって、
相互関係的な音楽が可能であるということを証明しようとする点において、
『Music for Private Ensemble』はこれまで以上にスリリングな作品であると言えるだろう。

#1『Reservations~』で鳴らされる不定形な音調、そして休符。
その全てが聴き手を試すような響きを持っており、
尚且つ聴き手に考慮の余地を残すような余韻を孕んでいる。
#2『Character Change』はアルバムの中で最もオープンな曲だろう。
管弦楽器と偶発的に挿入される環境音とが有機的に共存する様は、
聴き手とともに音楽を定義しようとする試みを示すには適している。

その#2での試みをより推し進めた快作が#3『City With All the Angles (For Dick Higgins)』だ。
言葉以前の声、ドアの開閉音、けたたましく鳴らされるインターホン。
これらの音を音楽と捉えるか、そうでないと捉えるか、
それらが全て表現者と聴き手との相互関係によって成り立っているという点において、
実験的かつ示唆的な曲であり、音楽-非音楽という境界が喪失した音楽であると言える。
そして、その流れを引き継ぐように奇妙な環境音と美しいストリングスが奏でられる
#4『Our Days of Generosity Are Over / Arden』でアルバムは幕を閉じる。

この作品でも挙げられたディック・ヒギンスのように、
音以前の音を描き出し、聴き手との関係を模索するSean McCannの音楽は実に音楽らしい。
『私的なアンサンブルのための音楽』と名付けられた本作は、
故に私的な音楽であり、私のための音楽であり、あなたのための音楽でもある。