Philip Glass - North Star




10/10点中

もうわざわざここで取り上げなくてもよい作家ではあるのだが、
この『ノース・スター』の日本盤は廃盤になってしまっている上、
かつウィキペディアにすら認知されていないアルバムなので、
ここで紙幅を割きたいと思う。

フィリップ・グラスはヴァージンから2枚LPをリリースしているのだが、
その内の一枚がこの『ノース・スター』である。
リリースは1977年、『グラスワークス』や『フォトグラファー』以前のアルバムで、
方向性自体はそれらに通底するものがあるが、
このアルバムにそれら2作と決定的に違う点があるとすれば、
電子音楽の大胆な導入である。

A面冒頭からスピリチュアルなコーラスワークが展開されるわけだが、
その後ろで鳴らされるのは管弦楽器の音ではなく、
フィリップ・グラス自身が弾くエレクトリック・キーボードの音色である。
以降も、サックス、フルート、コーラスと共にエレクトリック・キーボードが大胆にフューチャーされ、
フィリップ・グラスの深淵な世界観がミニマルに繰り返されるメロディに投射される。

特にB面はその色彩がかなり濃い。
タンジェリン・ドリームやマニュエル・ゲッチングの名すら挙げたくなる、
聴き手をズブズブと音の沼の中へと引きずりこむ、強烈なエレクトリック・キーボードの音色の渦。
それが始終反復し、かつ変拍子で鳴り続けるのだから、このアルバムは間違いなく変態だ。
ファウストや、それこそタンジェリンに目を付けるようなレコード会社から出ているのだから、
それはそれで自然な流れとも言えるのだが。

ともかく、グラスのドロドロした実験精神があらぬ方向にぶっ飛んでしまっている曲を聴ける貴重なアルバムだと思う。
ミニマル・ミュージックに入門したい方は『グラスワークス』や『フォトグラファー』から入るべきだと思うが、
刺激的な音楽を求めている方は間違いなく、この『ノース・スター』から聴くべきだろう。
時空の歪みを感じるような異世界がここにはある。