This Program is Brought to You, Bye. - 群馬ハイヌーン Gunma High Noon


9.0/10点中

「Vaporwave」は終わった。
タグは無邪気に量産されていく一方、
そこに初期の純粋さが見られるのか、と言われれば答えに窮してしまう。
ヴェクトロイドの蒸気のマナー、
そして、その態度以上に音楽で説得できるだけのクオリティが
Vaporwaveのタグにもはや担保されていない。

結局、これはVaporwaveの功罪なのだ。
その作りやすさ故に、人々はこれを媒介にしてSPFのような質の高いコミュニティを作り得た。
Saint Pepsiのような素晴らしいアーティストが評価される土壌を築いた。これは素晴らしいことだ。
しかし、逆にVaporwaveの品位は霧散した。
Mallsoftのようなジャンルが立ち上がってきたように、もはや、そこに批評性は無くなってしまった。

だが、移ろいやすいインターネットカルチャーの中で、これは仕方のないことだ。
これまでも様々なものが消費され、捨てられていった。
これからも様々なものが失われていくだろう。
問題はその失われたものに我々が本当の価値を見いだせるかだ。

このThis Program is Brought to You, Bye.の作品を聴いていると、
ヴェクトロイドを初めて聴いたときのような、
あのどうしようもない頭をもたげたくなるような倦怠感が再び蘇る。

日本のCMをコラージュした作風はFuji Grid TVを彷彿とさせるが、
ポップな側面が悉く切り落とされており、息もできないほどの圧迫感が聴き手を押し潰す。
率直に言ってしまえば、簡単に聴ける作品ではない。

しかし、簡単に聴ける作品ではないことで、Vaporwaveの本来の意味を取り戻せるなら、
不必要に長回しされたカットのような、無意味さと反復に本質があるなら、
この「群馬ハイヌーン Gunma High Noon」は作品として完全に機能しているし、
この営みからしか、「Vaporwave」のあの初期の輝きを取り戻すことはできないのだ。