幻の名盤解放歌集 真赤な夜のブルース


9.8/10点中

必聴の一枚。

そもそも、この「幻の名盤解放歌集」というコンピレーションは
一時的にはヒットしたものの人気が長続きせず黙殺された歌手や
良い曲、良い歌い手ではあるがヒットせず闇に葬り去られたレコードなど、
日本歌謡史の暗部にスポットを当てた、所謂「影」のアルバムであり、
故に歌手や作り手の呪詛ともいうべき、絶唱を聴くことが出来る。

こういった観点でこのコンピレーションを聴いた際に印象に残るのは
やはり、佐久間浩二、矢吹健だろう。

「愛の証しを」で、音割れしてしまうほどの声量を披露する佐久間の絶唱は
もはや暴力的であり、歌詞やメロディを超えた狂気を感じる。
そして、このアルバムで大々的にフィーチャーされている矢吹健も
高い歌唱力の中にドロドロとした情念を感じさせ、リスナーの心を揺さぶる。
両者とも腹の底を揺さぶるような、激情的な歌い手であり、
聴けば、この叫びの持つ意味がすぐさま了解できるはずだ。

そして、一番ここで取り上げなければいけないのは藤本卓也、その人である。
恐ろしいほど心に残る歌詞。
脳がゆっくり揺さぶられ、緩やかにずり落ちてしまう感覚に襲われる朧げなメロディ。
それを作り上げたのは全て藤本卓也なのだ。

全体を通して、気味が悪いほど音の均整がとれた作品であり、
何故これほどの完成度を持った作品が広く世に知られぬまま埋もれてしまったのか。
「すべての音源は平等にターンテーブル上で再生される権利を持つ」をモットーに、
この作品を世に出した幻の名盤解放同盟にはこの場を借りて感謝の意を表したい。

ともかく、このアルバムをレンタルショップでも中古CDショップでもなんでもいい、
あったらすぐに手に取り、聴くべきだ。絶対に聴くべきだ。