David Bowie - The Next Day


9.5/10点中

私はここにいる
死んではいない
――The Next Day

この強い宣誓から始まる、「ザ・ネクスト・デイ」は
これまでのデヴィッド・ボウイのキャリアをなぞりながら、
彼の楽曲、そして彼自身が在る意味を現代に問いかけている。

ボウイが「死んではいない」ということを自ら証明するような、力強いボーカルが披露される、
「The Next Day」からアルバムは始まり、
アルバムの中でも屈指の名曲であろう、「The Stars (Are Out Tonight)」、
ベルリン時代に思いを馳せるボウイのボーカルが見事に調和した「Where Are We Now」など、
楽曲はバラエティに富んでおり、ボウイの表現力の豊かさを存分に味わうことが出来る。

また、ボウイの歌唱力もさることながら、演奏陣も豪華で、
非常にレベルの高い演奏、楽曲を聴くことが出来るのもボウイの作品ならではだろう。
全編通して唸りを上げるギターは「Heroes」のそれを思い出すようなダイナミックな音像を持ち、
聴いていて非常に心地よい。

だが、このアルバムで最も優れているのは彼の紡ぎだした、その歌詞だろう。
「言いたいことがあるから曲を作った」と言うように、
「我々は今何処にいるのか?」「私は一体何者なのか?」と自らや社会の在り方を問いかける
ボウイの提言は現代に生きる我々が前進するためには不可欠なものであり、
アルバムの最終曲「Heat」で描かれるような、
逃れ難い「父性の監獄」に対する憎しみと自らへの絶え間ない問い直しを以て、
我々は迫ってくる明日、ではない「次の日」を掴みとらねばならないはずなのだ。
デヴィッド・ボウイが10年の沈黙を破り、ある種原点回帰的なアルバムを作った理由は、
まさにそこにあるのではないのかと私は思うのである。