8.6/10点中
サカナクションの6作目。
「表と裏」がテーマであるとメンバーが様々なインタビューで語っていたように、
「Inori」から聴いた場合と「Aoi」から聴いた場合では明らかに印象が違う。
ミニマルな電子音が特徴の「Inori」から始まる前半部は、
「ミュージック」や「夜の踊り子」など四つ打ちのアッパーな曲が次々と流れる、
非常にアグレッシヴな内容になっており、
「なんてったって春」や「アルデバラン」のようなシングル曲以外のアルバム曲も
「DocumentaLy」以前のようにアルバムの雰囲気を壊していない。
また、前作の時点で熟成されつつあった電子音の質も今回更に高くなっており、
実験的かつ耳馴染みの良いサウンドがリズミカルに展開される前半部は非常に心地よい。
そして、聖歌隊のコーラスのような厚みのあるボーカルが特徴の「Aoi」を境に、
ミドルテンポのサウンドが主体の後半部へ緩やかに移行していく。
立体的な電子音とピアノを調和させた「ボイル」、
様々な自然音をコラージュし、それを四つ打ちの音楽にしてしまった「映画」、
今回のアルバムで最も純粋なポップソングであろう「僕と花」、
まさにAORという言葉がピッタリの「Mellow」など、
後半部はかなりバラエティに富んでいるが、それらを上手くまとめきっており、
それ故、アルバム最終曲「朝の歌」へ向けての導入も非常にスムーズに行えている。
非常に完成度の高い作品で、これだけ大衆に訴えかけ、
かつ実験的な要素を孕んだ作品は邦楽ロック史を振り返ってみても数少ない。
欲を言えば、これだけ前半部と後半部がそれぞれ完成しているのだから、
彼らがインタビューで答えていたように「表」と「裏」でアルバムを分けていれば、
本当に素晴らしい作品になっていただろう。
ただ、これまでのサカナクションの作品の中では間違いなく最も素晴らしい作品であり、
何より、山口一郎がナタリーのインタビューに答えていたように、
「必ずしも自分で音楽をやらなくてもいい」、
「『DocumentaLy』の『エンドレス』でやりすぎた」など、
バンドがこれまで以上に客観的な視野を持てるようになったことはとても大きいと思う。
次回作がより楽しみになる、懐の深いアルバムであった。
ラベル:
8.0以上,
Alternative,
Disco,
Electronic,
Synth Pop,
アルバムレビュー,
邦楽